相続法改正のまとめ

相続法の改正平成30年7月、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、昭和55年以来、約40年ぶりに相続法制の大幅な見直しとなる改正がなされました。
以下において、この相続法の主な改正点についてまとめています。

目 次

平成31年1月13日に施行された改正

自筆証書遺言の方式緩和

改正前においては、自筆証書遺言は、遺言書の全文、日付および氏名を自筆する必要があり、パソコン・ワープロ等で作成することや、他人が代筆することは認められませんでしたが、改正により、自筆証書遺言に相続財産(遺贈の目的である権利が相続財産に属しない場合におけるその権利を含みます。)の全部または一部の目録を添付する場合は、その目録については自筆する必要がなくなりました(民法第968条第2項)。

このため、この財産目録に関しては、パソコン等で作成する方法や、他人に代筆してもらうことができ、また、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳のコピーを財産目録とすことも可能です。

なお、上記のような自筆によらない財産目録を作成するためには、その財産目録のすべてのページ(自筆によらない記載が両面にある場合は、その両面とも)に、遺言者自身が署名し、押印(遺言書本文に押印した印鑑と同一であることまでは要求されておりません。)をする必要があります。

令和元年7月1日に施行された改正

夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

特別受益の持戻し

各相続人の具体的相続分を算定する場面において、共同相続人の中に被相続人から一定の贈与や遺贈を受けた者(特別受益者)がいる場合には、被相続人が相続開始時に有していた財産にこの贈与等がされた財産を加えたものを相続財産とみなしたうえで、この相続財産の価額に特別受益者の法定相続分率または指定相続分率を乗じて算出された額から贈与等がされた財産の価額を控除した残額が、特別受益者の具体的相続分となります(特別受益の持戻し、民法第903条第1項)。

この「特別受益の持戻し」を行った場合には、特別受益の額が相続分の額を超えるときを除いて、特別受益者の最終的な取得額は、結局のところ、贈与等がなかった場合と同じになってしまいます。

なお、被相続人が特別受益の持戻しを免除する意思表示をしたときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に反しない範囲内でその効力を有し(民法第903条第3項)、特別受益者がより多くの財産を取得できることになります。

改正された点

改正法により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、居住用建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたときは、その遺贈または贈与について特別受益の持戻しを免除する意思表示があったものと推定されることとなりました(民法第903条第4項)。

これにより、婚姻期間が20年以上の配偶者に、居住用建物またはその敷地を贈与等した場合は、相続財産におけるその配偶者の取得分が増加することが想定されます。

なお、この規定は、特別受益の持戻しを免除する意思表示を推定するものであるため、被相続人が異なる意思を表示していた場合には、特別受益持戻しの免除は認められないこととなります。

預貯金の払戻し制度の創設

平成28年12月19日最高裁大法廷決定により、相続された預貯金債権が遺産分割の対象に含まれることとなり、遺産分割が終了するまでの間は、相続人が単独で払戻しを求めることができないこととされました。

このため、葬儀費用や相続債務の支払い、生活費などで、相続開始後に相続人において資金需要が生じた場合に、速やかに預貯金の払戻しを受けることができず、相続人にとって負担となるおそれがあります。

そこで、改正法では、各相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始時における債権額の3分の1にその相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、1つの金融機関から払戻しを受けられる金額は150万円まで)については、単独で払戻しを受けることが認められるようになりました(民法第909条の2)。

本規定により相続人が払戻しを受けた預貯金債権については、その相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされることとなります(民法第909条の2後段)。

遺留分減殺請求権の効力変更

改正前

遺贈等によって遺留分を侵害された者(遺留分権利者)及びその承継人は、「遺留分減殺請求権」を行使することができました。
遺留分権利者がこの権利を行使すると、遺贈等の目的財産が特定物の場合には、遺贈等は遺留分を侵害する限度において失効し、その限度で当然に遺贈等の目的財産についての権利が遺留分権利者に帰属しました。

このため、遺留分減殺請求権の行使により、遺贈等の目的財産が受遺者等と遺留分権利者との共有となる状態が生じ、共有となった物の処分が困難になったり、事業承継の支障となる場合がありました。

改正後

改正により、遺留分を侵害された場合、遺留分権利者及びその承継人は、受遺者等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができることとなり(民法第1046条1項)、これに伴い、遺留分の侵害に対して行使する権利の名称が、「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」に改められています。また、上記の受遺者等には、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)により財産を承継した相続人や、相続分の指定を受けた相続人が含まれることが明記されました(同項括弧書)。

この遺留分侵害額請求権の行使では、遺贈等は失効せず、金銭債権が発生するだけであるので、遺贈等の目的財産について共有状態は生じなくなりました。

なお、遺留分侵害額請求権の行使を受けたことにより負担することになる金銭債務について、受遺者等が支払い原資となる金銭を直ちに準備することができない場合は、受遺者等は裁判所に対して、裁判所により支払期限を猶予することを求めることができます(民法第1047条5項)。

特別の寄与の制度の創設

改正前は、寄与分(民法第904条の2第1項)が認められるのは相続人に限られているため、相続人以外の者が被相続人の療養看護等を行い、被相続人の財産の維持・増加に寄与した場合であっても、その者がその寄与に見合った相続財産を取得することを主張することはできませんでした。

改正法により、特別の寄与に関する規定が設けられ、被相続人に対して無償で療養看護等の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続放棄をした者、相続欠格者及び廃除された者は除きます。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができるようになりました(民法第1050条1項)。
これにより、相続人の配偶者や子などが被相続人の介護等に努めた場合には、その貢献に見合った特別寄与料を請求することができる可能性があります。

令和2年4月1日に施行された改正

配偶者居住権の新設

被相続人の配偶者(以下「配偶者」といいます。)が相続開始時に被相続人の所有する建物に居住していた場合には、配偶者はその居住建物に引き続き住み続けることを希望されることが多いですが、この配偶者の居住権を確保するために、遺産分割等により配偶者が居住建物の所有権を取得すると、それ以外の遺産が取得できなくなって、その後の生活費が不足するようなケースが生じることが考えられます。

そこで改正法により、配偶者による居住建物の使用・収益だけを認め、処分権限のない権利(配偶者居住権)が新設され、配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも低い価額で配偶者の居住権を確保することができるようになりました。

これにより、例えば遺産分割等において、配偶者は配偶者居住権を取得してその居住権を確保しつつ、居住建物の所有権は被相続人の子が取得するといったことが可能となります。

配偶者居住権の概要
成立要件

配偶者は、相続開始時に被相続人の所有する(配偶者以外の者と共有する場合は除く)建物に居住していた場合で、次の①~④のいずれかに該当するときに、配偶者居住権を取得し、その居住建物の全部を無償で使用・収益することができます(民法第1028条1項、1029条)。

  • ① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
  • ② 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
  • ③ 被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる内容の死因贈与契約があるとき
  • ④ 家庭裁判所が、遺産分割の審判において、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めたとき
存続期間

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間となりますが、遺産分割協議や遺言等で別段の定めをすれば、その定めた期間となります(民法第1030条)。

使用・収益の方法

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用・収益をする義務を負います。
ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することはできます(民法第1032条1項)。

譲渡等の制限

配偶者は、配偶者居住権を譲渡することができません(民法第1032条2項)。
また、所有者の承諾を得なければ、居住建物を改築・増築したり、第三者に使用収益させることができません(民法第1032条3項)。

登記

配偶者居住権を居住建物の譲受人等の第三者に主張するためには、配偶者居住権の設定の登記を備える必要があります。
配偶者がこの登記を備えると、居住建物の占有を第三者が妨害しているときや、居住建物を第三者が占有しているときには、配偶者はその第三者に対して、妨害の停止や返還の請求をすることができます(民法第1031条、605条の4)。

消滅事由

配偶者居住権は、次のときには消滅します。

  • ① 存続期間の定めがある場合に、その存続期間が満了したとき
  • ② 配偶者と居住建物の所有者との間で、配偶者居住権を消滅させる合意をしたとき
  • ③ 配偶者が用法遵守義務に違反した場合に、居住建物の所有者が配偶者に対して、配偶者居住権を消滅させる意思表示をしたとき
  • ④ 配偶者が死亡したとき
  • ④ 居住建物が滅失したとき
居住建物の返還

配偶者居住権が消滅した場合は、配偶者は、居住建物を返還し、居住建物に生じた損傷(通常の使用・収益によって生じた損耗及び経年変化を除く)について、原状回復義務を負います。

配偶者短期居住権の新設

改正法により、被相続人の配偶者(以下「配偶者」といいます。)が、相続開始時に被相続人の所有する建物に無償で居住していた場合、配偶者が引き続き居住建物を次の区分に応じて定める日までの間使用することができる「配偶者短期居住権」が認められるようになりました(民法第1037条1項)。

(1)居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合
⇒遺産分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日

(2)遺言により配偶者以外の者が居住建物を取得する場合等、(1)以外の場合
⇒居住建物取得者から、配偶者短期居住権の消滅の申入れがされた日から6か月を経過する日