旧民法が適用される相続何十年も前に亡くなった方の相続手続きをする際には、亡くなった時期によって適用される法律が違ってきますので注意が必要です。

適用される法律は、故人が亡くなった時期に応じて、次のように分かれます。

・明治31年7月16日~昭和22年5月2日  ⇒旧民法


・昭和22年5月3日~昭和22年12月31日 ⇒応急措置法


・昭和23年1月1日~昭和37年6月30日  ⇒新民法
・昭和37年7月1日~昭和55年12月31日 ⇒新民法(昭和37年改正)
・昭和56年1月1日~現在          ⇒新民法(昭和56年改正)

旧民法時代について

旧民法下においては、いわゆる家制度が採用されていました。家は「戸主」と戸主以外の「家族」で構成されており、戸主は、家の長として、その構成員を統率する大きな権限(戸主権)を持っていたため、戸主と戸主以外の家族の場合では、相続の制度が異なっていました。

戸主の死亡・隠居等 ―家督相続ー

家督相続が開始すると、前戸主が有していた戸主の地位に基づく身分上・財産上の権利義務のすべて(ただし、前戸主の一身に専属するものは除く。また、留保財産の特例あり。)を、1人の家督相続人が承継していました。

なお、家督相続は、戸主が亡くなった時だけでなく、「戸主の隠居又は国籍喪失」「戸主の婚姻又は養子縁組の取消による去家」「女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚」によっても開始されました。

◆家督相続人の順位◆

【第一順位】 法定家督相続人

「被相続人の家族たる直系卑属」とされています。「家族たる」とは、相続開始時に被相続人を戸主とする戸籍に同籍しているということであり、「直系卑属」とは、実子・養子・継子・庶子(非嫡出子)の区別なく認められました。

家族たる直系卑属が複数いるときは、次の基準に従って決められます。

◆親等の近い者が先順位となる
◆親等が同じ者の間においては男が先順位となる
◆親等が同じ男または女の間においては嫡出子が先順位となる
◆親等が同じ者の間においては、女であっても嫡出子及び庶子が先順位となる

これをまとめると、子の世代における順序は、①男子の嫡出子 ②男子の庶子 ③女子の嫡出子 ④女子の庶子 ⑤男子の私生子 ⑥女子の私生子 の順ということになります。
さらに、各項目ついて全て同じ条件の者の間においては年長のものが先順位となります。

なお、法定家督相続人については、家督相続を放棄することは許されていませんでした。

★代襲相続について★

法定家督相続人となるべき者が、家督相続の開始前に死亡していたり、欠格事由該当・廃除・離籍・離縁などにより相続権を失っている場合には、その者の直系卑属(被相続人から見て孫など)が、上記の順序に従い、その者と同順位において(=つまり、亡き長男に子がある場合には、二男より亡き長男の子の方が先順位となる)代襲家督相続人となります。

★養子の子と代襲相続★

養子の代襲相続人となれるのは、養子縁組後に出生した子のみとなります。これは、現在でも同じです。
さらに、旧民法においては、養子と養親及びその血族関係は離縁によって終了しますが、養子の配偶者・直系卑属については、届出による除籍により養家を去らない限り、養親との親族関係は止まないことになっていました。したがって、養親が死亡した場合、離縁した養子の子も代襲相続人となり得ました。

【第二順位】 指定家督相続人

第一順位の法定家督相続人がいない場合で、戸主の死亡または隠居による家督相続のときに限り、被相続人(戸主)が生前または遺言により指定した者が家督相続人となります。

なお、指定による家督相続人がいるかいないかは、戸籍を見れば確認できます。
また、指定家督相続人には、代襲相続の制度は適用されません。

【第三順位】 第一種 選定家督相続人

法定家督相続人も指定家督相続人もいない場合は、以下の要領で選定しました。

◆選定者  ⇒ 次の順序で選定者となります。
その家にいる被相続人(戸主)の ①父 ②母 ③親族会
※「親族会」は、家やその家に属する個人の重要事項について話し合うための機関です。親族会員は3名以上とされ、親族その他本人やその家に縁故のあるものの中から、裁判所によって選定されました。

◆被選定者 ⇒ 次の順序で被選定者となります。
①配偶者(ただし家女であること) ②兄弟 ③姉妹
④家女以外の配偶者 ⑤甥姪

【第四順位】 家族たる直系尊属

第三順位の被選定者もいない場合に適用されます。相続開始時に、被相続人の家族である直系尊属の中から、①親等の近いもの ②親等が同じ場合は男が先順位 という基準で決定します。

【第五順位】 第二種 選定家督相続人

第四順位にも該当者がいない場合には、被相続人の親族・家族・分家の戸主・本家又は分家の家族あるいは他人の中から親族会が選定しました。

◆実際に相続手続きをするにあたって注意すべき事項◆

【新民法附則第25条について】

上述したとおり、応急措置法施行前(旧民法時代)に開始した相続については、原則として、旧民法を適用することになります。

ただし、以下の例外があります。

昭和22年5月2日以前に家督相続(入夫婚姻の取消、入夫の離婚又は養子縁組の取消による場合を除く)が開始し、旧民法の規定によれば、家督相続人を選定しなければならない事案であったにもかかわらず、家督相続人が選定されないまま新民法が施行されるにいたった場合には、選定の手続きを採ることなく、新民法を適用する。

【隠居者名義の不動産について】

隠居者名義の不動産が残っている場合、隠居の日付とその不動産の取得年月日との前後関係をよく注意しなければなりません。

不動産の取得年月日が隠居日より後である場合、その不動産は隠居者の特有財産であり、家督相続の対象となる財産ではありませんので、家督相続を原因とする登記を申請しても却下されてしまいます。

戸主以外の死亡 ー遺産相続ー

戸主以外の家族が亡くなった場合には、「遺産相続」が開始されます。家督相続とは異なり、遺産相続の開始原因は当人の死亡のみであり、同順位の相続資格者が複数いるときは共同相続となりますので、現在の相続と近いイメージになります。

◆遺産相続人の順位◆

【第一順位】直系卑属

家督相続とは違い、被相続人と同一家族である必要はありません。また、相続人となることについて、男女・長幼・実子・養子・嫡出子・非嫡出子・庶子・継子による区別はされません。ただし、非嫡出子の相続分については、嫡出子の相続分の2分の1とされています。

【第二順位】配偶者

固有の単独遺産相続権です。

【第三順位】直系尊属

養子縁組・継親子・男女の別により区別はされません。

【第四順位】戸主

第三順位までの相続人が誰もいない場合には、戸主が遺産相続人となります。なお、家督相続開始後、家督相続人選定前に、その家の家族に遺産相続が発生し、戸主が遺産相続人となる場合には、のちに選定された家督相続人が遺産相続人となります。

◆代襲相続について◆

家督相続と同じように、離縁した養子の子にも代襲相続権が認められていました。

応急措置法時代について

応急措置法とは、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」の略称です。旧民法が、個人の尊厳と両性の本質的平等を保障する憲法の精神に反することとなったため、応急的な措置を講ずる目的で立法されました。

家制度が廃止され、戸主・家族その他「家」に関する規定は全廃され、家制度を継続するための制度であった「継親子」「嫡母庶子」「壻養子縁組」といった制度も廃止されました。

◆相続順位と法定相続分◆

【第一順位】
配偶者:3分の1
直系卑属(親等の近い順・代襲あり):3分の2

【第二順位】
配偶者:2分の1
直系尊属(親等の近い順):2分の1

【第三順位】
配偶者:3分の2
兄弟姉妹:3分の1 ※半血であっても相続分は同じ

◆遺留分について◆

兄弟姉妹以外の相続人について、以下のとおり遺留分の額が定められました。

相続人が直系卑属のみまたは直系卑属+配偶者の場合 ⇒ 2分の1
その他の場合                   ⇒ 3分の1

◆代襲相続について◆

現在とは違い、兄弟姉妹の直系卑属による代襲相続は認められませんでした。また、離縁した養子の子は代襲相続権を有しないものとされました。

新民法施行後について

応急措置法を基礎として、昭和23年1月1日から新しい民法が施行されました。相続制度の仕組みとしては、①遺言がある場合にはこれを優先する ②遺言がない場合には民法の定める法定相続となる ③遺言を一定の範囲で制限する遺留分の制度 の3つが基本となっています。

昭和23年1月1日施行

◆応急措置法との相違点◆

相続順位や相続分については、基本的には応急措置法時代と同じですが、以下のような相違点があります。

【代襲相続について】

兄弟姉妹の直系卑属による代襲相続が認められるようになりました。

【半血兄弟姉妹の相続分について】

父母の一方を同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とされました。

【新民法附則第26条第1項について】

応急措置法施行の際の戸主が、婚姻や養子縁組によって他家から入った者である場合で、新民法施行後にその戸主について相続が発生したときには、その家の「家附の継子」は嫡出子と同じ権利義務が認められます。

★家附の継子(いえつきのけいし)とは★

継子のうちでも『その家で生まれた者』のことで、他家から入籍した者(例:入夫または壻養子の連れ子)は含まれず、旧法中であれば、その生家で戸主の財産を相続するであろう期待のあった子を意味します。新法をそのまま適用すれば相続権のない子になりますが、それではあまりにもその子の利益を損なうことになってしまうため、上記の特例があるのです。特例が適用されるには、以下の要件がそろうことが必要です。

  • 被相続人が応急措置法施行の際に戸主であったこと
  • その戸主は、婚姻(入夫婚姻)または養子縁組(単純・壻養子)によって他家から入ってきたものであること
  • その戸主とその家で生まれた戸主の配偶者の子との間に、応急措置法施行の際に継親子関係があったこと

昭和37年改正

◆相続順位と法定相続分◆

【第一順位】
配偶者:3分の1
子:3分の2

【第二順位】
配偶者:2分の1
直系尊属(親等の近い順):2分の1

【第三順位】
配偶者:3分の2
兄弟姉妹:3分の1

昭和56年改正

◆相続順位と法定相続分◆

【第一順位】
配偶者:2分の1
子:2分の1

【第二順位】
配偶者:3分の2
直系尊属(親等の近い順):3分の1

【第三順位】
配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1

◆代襲相続について◆

代襲者を無限に認めていくと、かなり縁の遠い者まで相続人が広がってしまうため、兄弟姉妹についての代襲者は兄弟姉妹の子(つまり、被相続人の甥姪にあたる者)までに限定されました。